MENU

よみがえりのレシピ

今日は、地元の映画館で、『よみがえりのレシピ』(渡辺智史監督 2011年)を観ました。
http://y-recipe.net/
本当によくできたドキュメンタリー作品で、あとで監督がまだ若いことに気づき(1981年生まれ)、その完成度の高さに驚きました。
このブログのテーマでもある、新しい「文明」の可能性について無数のヒントを与えてくれる作品です。
「文明」の構成要素である、〈自然(環境)〉―〈技術(農業・調理・教育・政治)〉―〈次世代(命・子ども)〉のそれぞれを一筋につなぐ〈食(野菜)〉という存在。
在来作物という具体的なモノを通じて、そこに歴史的に人々がつくりあげてきた総合的な文化と知恵を発掘し、新たによみがえらせる作業。干ばつや日照りなどによる飢餓を克服するために植え続けられてきた「甚五右エ門芋」、古くからの種だけは絶やさない方がいいと直感し、細々と在来種の栽培を続けてきたおばあさん、発癌を押さえる独特の苦みを楽しむ味覚の継受などは、まさに「民衆の安全保障」の具体的な姿に他なりません。今は廃れた林業の一環としても行われてきた焼畑農業とカブの生産に見られるように、人が生き残っていくために、自然を征服するのではなく、まさに自然と共生するための豊かな知恵の数々が紹介されます。
また、そこには必ず、老人と青年と子どもが登場し、それぞれが命を媒介に豊かにつながりあっていく姿も描かれています。そこでは、老人は、都市社会におけるようにけっして蔑まれることなく、知恵と経験の宝庫として尊重されます。焼畑を50年やっても、「たった50回しかやったことがない」という技の世界。青年はその老人の経験に学び、修行を積みながら、大人の顔になっていきます。子どもたちは自らを大きな自然のリズムと節理の中で位置づけ、謙虚に、かつ無用な不安におののくことなく伸び伸びと成長していきます。そして登場する「労働者」のすべてが本当の労働の喜びについて、自らの土地の言葉で語ります。
そして、一件のイタリア料理屋さん(アル・ケッチャーノ)のシェフ(奥田政行さん)と、大学農学部の研究者(江頭宏昌さん)がまさにファシリテーターとして、農村の伝統と未来をつなぐ役割を果たします。タイトルの「レシピ」はまさ作品のメッセージの本質を表していて、これからは「レシピ」を創り出す私たちの「技」次第で、新しい「文明」の可能性が切り拓かれることが示唆されます。シェフの奥田さんは、料理人が自分のもっている技術で素材を「調理してやる」という意識ではダメだと言います。むしろ、その土地に根差した素材の声をききとげ、それを最大限に活かすために自分の知識と技術を駆使すると言います。その彼の新しい「調理法(レシピ)」こそ、次の時代の「技術」の姿だと言えそうです。在来野菜は、彼の「レシピ」によって世界でそこでしか楽しめない、超一級の高級料理に化けます。また、その野菜の生産者は彼のレストランで、自分がつくった野菜がどのように化けたのか、その驚きを楽しみに集います。何という、豊かさ。
最後に、米沢市の雪菜をつくるおじいさんの語りです。「風土」は、文字通り、風と土がつくる。おいしい雪菜は、冷たい風が吹き抜けることで本物の味になる…。
風が野菜を美味しくするなんて。私はそんなことも知らなかったという事に愕然としました。
これまで命をつないできた、数えきれない数の無名な人々の物語。その映像の美しさにも感嘆するばかりでした。

よかったらシェアおねがいします。
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次