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希望の政治学読本 ⑥

「希望の政治学読本」の第6回目です。

 

ティク・ナット・ハン『和解』(サンガ) 1400

 

「和解」という冒険の旅へ

 

 「和解」は21世紀のキーワードである。人類は今、近代世界で分断されてしまった多くのつながりを再生させるための思想と技(わざ)とが試されている。「世界を変革しようと思うなら、まずは自分がその変革となれ」という箴言がある。これは実際に世界を変革したブッダやガンディが実践したことでもある。しかし私たちは今世界を「和解」させる前に、まず自分自身と「和解」できていないのかもしれない。本書が示すのは、まさに現代世界の「和解」への鍵が、私たちひとりひとりの内側にあるという真実である。

 人類は、「ホモ・エレクトス(直立する人)」や「ホモ・ハビリス(器用な人)」、あるいは「ホモ・サピエンス(思考する人)」と呼ばれてきた。しかし著者によれば、何よりも私たちは「ホモ・コンシャス(気づきの人)」と呼ばれるべき存在である。私たちは自らの内に潜む痛みや悲しみに対峙し、そこに「内なる明かり」を灯し、それを受け入れ、ケアすることで、自分を構成した家族や祖先、あるいは宇宙全体とも「和解」することが可能となる。過去の幻影に捕らわれ、自我の牢獄に閉じこもるのではなく、自らを「命の流れの続き」として実感し、真に自由になることで、世界に満ちた暴力の再生産(輪廻)から抜け出すことができる。著者はこの絶え間ない気づきの実践を「マインドフルネス」と呼んでいる。

 僧侶であり、詩人であり、人権・平和活動家である本書の著者は、ベトナム戦争時に「社会参画仏教(応用仏教)」の指導者として戦火で傷ついた人々を支援し、また戦争終結を求める和平提案によって母国を追われた。一貫して実践的な彼の教えが志向するのは、自己変革を通じた世界の変革である。昨今注目される「非暴力コミュニケーション」の技法などとも通底している。

 本書は、自律的に世界と連帯する技(わざ)、すなわち「和解」という無限の可能性をもつ冒険の旅へ読者を誘う。訳文もとても丁寧である。

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