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希望の政治学読本 ⑪

ジャレド・ダイアモンド『第三のチンパンジー』(草思社) 1,800円

人間の未来を考えるために

先日、久しぶりにスタンリー・キューブリック監督の『二〇〇一年宇宙の旅』を観た。今から半世紀近く前の作品であるにもかかわらず、今観ても鮮烈な印象を与える傑作である。まだ言葉すらもたないサルが空中に投げる一本の骨が、一瞬で真空に浮かぶ宇宙船に変わるシーンは有名である。キューブリックの作品はいつも、「人間とは何か」を問うている。しかも、常にどこまでも冷徹なまなざしで。

本書もまた、「人間とは何か」を問う。そしてキューブリック同様、はじめから人間に特権を与えたりはしない。もちろん人間は、言語や道具を操り、農業や芸術を生み出した。しかし、しょせん人間は「第三のチンパンジー」にすぎず、他の動物と共に生物的進化の長い旅路を歩む生命の一部であった。ただ、人間は特別な動物でもある。しかもそれほどは誇るべくもない意味において。

まず、「みずからの種やほかの種を絶滅に追いやる能力」をもつようになった。「ジェノサイド」は歴史上、人間の習性であった。また、必ずしも生殖とは結びつかない「風変わりな性行動」を示し、体に悪い薬物を乱用し続けてきた。本書は、これら「不都合な真実」がなぜ誕生したのかを、生理学、進化生物学、生物地理学、言語学、人類学等々、多くの学問分野を越境し、明らかにしようとする。本書の魅力は、その豊富な知識に基づく壮大なストーリー展開であるが、人間の解明という包括的な課題には、そもそもこのような横断的知性が不可欠である。

さて、自らを滅ぼす可能性がある私たち人間は、今後どうすればいいのだろうか。まず、自分たちがつくりあげてきた「文明」そのものを再度冷徹に見つめ直すことから始めなければならない。本書は、このように、「過去を理解し、将来の手引きとする」ために書かれた。つまり、人間の希望は、いわばこの歴史的な反省能力にある。

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