『日刊ゲンダイ』の書評連載「希望の政治学読本」は、この12回目で最終回でした。当初予定されていた連載期間を大幅に超えました。この時はまだ知事選の結果が出る前でした。連載中はまさに選挙のど真ん中で、今思い起こすと自分でもよく書けたな、と思います。選んだ本はいずれもこのブログのテーマ、<文明>論に関わるものばかりです。
なお、連載の内容は、日刊ゲンダイのHPでも見られます。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/2694?page=1
上村雄彦『世界の富を再分配する30の方法』(合同出版) 1,400円
「グローバル・タックス」の可能性
新潟の激しい知事選が終わり(この原稿を書いている段階でまだ勝敗は全く予測できないのだが)、選挙戦の過程であらためて気がついたことは、日本の国家権力の真の姿であった。自民党の二階幹事長が経団連幹部との懇談で、「何とかして、(自民、公明推薦候補の)勝利を考えていきたいと思いますが、どうか電力業界など、オール日本でやっぱり対抗していかないといけない」と語ったように、「オール日本」というのは、官邸や与党とならんで経団連や電力業界のことを意味するらしい。私たちはその二階さんの言う「オール日本」と闘ったわけだが、それはつまり、今回の知事選では、私たち新潟の市民がその「日本」に入っているのかいないのかが問われたということになる。
もう誰もが知っていることだが、現代世界の権力は、グローバル資本主義に根差している。簡単に言えば、富をもてる1%が残りの99%を支配する世界だ。もういいかげん世界全体を公正にしない限り、次々と噴出する問題を解決できなくなっている。しかもそれを暴力革命によって実現することもできない。残る方法はひとつだ。グローバルな制度を漸進的に変えてゆくしかない。
本書が提起する「グローバル・タックス」(地球レベルの徴税制度)は、そのもっとも有力な方法のひとつである。化け物のような金融取引や悪魔のような兵器取引に税金をかけて、その集めた資金をエイズ対策や貧富の格差の是正、地球温暖化対策などに使う。いたって合理的である。ただ問題は、このような事実上の「世界政府」の機能をどうやって実現するのかということである。本書は、それを「絵に描いた餅」にしないために、きわめて具体的な方法を提示する。しかも「中学3年生くらいから理解できること」をめざして。
本書の編著者は、長年に渡り、単に研究者としてだけではなく、活動家としてもこの問題一筋に取り組んできた。小著であるが、内容は豊穣である。